録音(Recording)

『幼年時代の思い出 松平頼則 ピアノ作品集』Vol. 1


日本の作曲家、松平頼則(1907–2001)の最初期のピアノ組曲《幼年時代の思い出》(1928–30/rev. 1985?)、そして《こどものためのピアノ小品》(1928?–1942?/rev. 1970?)の世界初録音に加えて、松平が《幼年時代の思い出》を作曲するきっかけともなった英国の作曲家ユージン・グーセンス(1893–1962)の《万華鏡》Op. 18(1917–18)の日本初録音を含むアルバム。
初リリースは2016年3月。装いもあらたに再リリース。

録音:2015年12月17, 18日/加古川ウェルネスパーク アラベスクホール

ピアノ:河合珠江
レコーディング:笹井慎二(woodnote studio)
カバーデザイン:北田雲音
プロデューサー:竹内直


1: 万華鏡, Op.18: 1. おはよう

2: 万華鏡, Op.18: 2. 散歩道

3: 万華鏡, Op.18: 3. ハーディー・ガーディー弾き

4: 万華鏡, Op.18: 4. 木の兵隊の行進
5: 万華鏡, Op.18: 5. 揺り木馬

6: 万華鏡, Op.18: 6. パンチとジュディ
7: 万華鏡, Op.18: 7. おばけのお話

8: 万華鏡, Op.18: 8. 古いオルゴール

9: 万華鏡, Op.18: 9. 時計仕掛けの踊り子

10: 万華鏡, Op.18: 10. 死んでしまったお人形への哀歌

11: 万華鏡, Op.18: 11. 楽しいパーティー

12: 万華鏡, Op.18: 12. おやすみ


※2016年にリリースしたアルバムを再構成しての再リリースです(ただし、ストリーミング配信&ダウンロード販売のみ)。

『幼年時代の思い出 松平頼則 ピアノ作品集』Vol. 2


1: こどものためのやさしい小品 : 1. 唄
2:
こどものためのやさしい小品: 2. いなか風の踊
3: こどものためのやさしい小品: 3. 子守唄
4:
こどものためのやさしい小品: 4. 遊戯
5:
幼年時代の思い出 - 十の小品: 1. 子守唄
6:
幼年時代の思い出 - 十の小品: 2. 金魚
7:
幼年時代の思い出 - 十の小品: 3. オルゴール
8:
幼年時代の思い出 - 十の小品: 4. 手まり唄
9:
幼年時代の思い出 - 十の小品: 5. 恐い夢
10:
幼年時代の思い出 - 十の小品: 6. 木馬
11:
幼年時代の思い出 - 十の小品: 7. しゃぼん玉
12:
幼年時代の思い出 - 十の小品: 8. 遊戯
13:
幼年時代の思い出 - 十の小品: 9. 毬を抛り上げるピエロ
14:
幼年時代の思い出 - 十の小品: 10. 行進曲

サンプル音源
《幼年時代の思い出》より〈オルゴール〉

https://music.youtube.com/watch?v=azsVjWlGNmc&list=OLAK5uy_nloZATBH8AieK-Hg7WbEzHsfi3pxAQnzU


演奏者のことば

松平とジル=マルシェックスの運命的な出会い

松平頼則の音楽活動を語る上で、1925年に起こったアンリ・ジル=マルシェックス(1894-1970) との出会い、そしてその後の交流は欠かすことができない。フランスの優れたピアニストであり、ラヴェルやタンスマンなど同時代の作曲家とも交流のあったジル=マルシェックスの演奏は、当時の日本に驚きと賞賛とともに迎えられた。そのときに熱狂した聴衆のひとりが、松平少年であった。松平は、ジル=マルシェックスがバッハ、クープランからバルトーク、フランス6人組にいたるまで「鳥瞰的に」作品を披露したことで、歴史の流れの中での現在を敏感に感じ取ったようである。そしてその聴体験が、作曲家ないしピアニストとしての音楽活動を決定づける、ひとつの道標となった。松平の人生に影響を及ぼしたともいえるジル=マルシェックスの演奏とはどのようなものであったのか。幸運にも、松平が彼のレッスンに関するノート(『音楽新潮』1932)により、我々はその一端を窺い知ることができる。

「ドビュッシィのプレリュードの演奏方法」

松平はジル=マルシェックスから教えを受けたドビュッシーの前奏曲第1巻(抜粋)について、そのレッスン内容をまとめて発表した。それらは短いものであるが、どれも具体的かつ示唆に富んでいる。難しいパッセージに関して提示された練習方法は、ジル=マルシェックスの師であるA. コルトーのメソッドを想起させ、大変興味深い。全編を通して目につくのは、タッチの多様さである。柔らかい音色を出すときには「指の腹で」「鍵盤のそばで」「指を滑らせて」等々、より明瞭な音が求められるときには「鍵盤と指の角度は90度に」「指を前方にのめらせて」等々、かなり詳細な指導を受けたようだ。そのような多様なタッチは、声部を明確に弾き分けること―とくにペダルを用いた豊かな響きの中での明瞭さ―を可能にする。鍵盤に対して様々な角度からのタッチ、アタックを試している点、またそのことに付随して、身体の脱力、柔軟性を重要視している点は、当時の日本に新しい風を吹き込んだひとつの要因だったのかもしれない。そしてそれは、当時のパリにおいても、けっして古くからのものではなかったのである。ジル=マルシェックスの登場は、日本とパリとの時差を、急速に縮めたといえるだろう。

松平《幼年時代の思い出》

さて、ジル=マルシェックスが来日時に弾いたグーセンス作曲《万華鏡》に触発されて書いたというのが、松平の《幼年時代の思い出》である。この曲集は、「オルゴール」「木馬」「恐い夢」等、発想そのものが似通っているのだが、奏法面に関しては、上に見たジル=マルシェックスの演奏が透けてみえるのである。「子守唄」における柔らかなppのタッチ、「金魚」「木馬」「毬を蹴り上げるピエロ」における軽やかに跳ね上がるタッチ、「オルゴール」「しゃぼん玉」におけるペダルを活用して創り出すガラス細工のように鋭敏なタッチ、「手まり唄」「遊戯」にみられる精巧な弾き分け、その中で不気味に浮かび上がる「恐い夢」、「行進曲」に求められる明瞭な発音――このような微細なタッチの要求は、やはりジル=マルシェックスの演奏によって誘発されたといっていいだろう。

ピアノの単なる平面的な鍵盤から未知だった近代の新鮮な百合園へ――。

松平がジル=マルシェックスとの出会いを言葉にしたものである。その素直な驚嘆と憧れが、松平の作品番号1《幼年時代の思い出》に如実に表れている。ジル=マルシェックスが初来日の際に蒔いた種が、豊かに実っていくまさに出発点ともいえる。作曲家松平頼則の原点として、単なる習作としてではなく、後世に弾き継がれる名作であると再認識されることを願っている。

河合珠江(ピアニスト)

『Souvenirs d'enfance(幼年時代の思い出)』ブックレットより再掲

『色とりどりのエチュード集 Études d'ailleurs』

『色とりどりのエチュード集 Études d’ailleurs』は、日本の作曲家・松平頼則(1907–2001)の《日本の旋法によるピアノのための練習曲》(1970)全曲の世界初録音を軸に構成されたアルバムである。

あわせて、ロシアのイーゴリ・ストラヴィンスキー(1882–1971)の《五本指》(1921)、ポーランドのカロル・シマノフスキ(1882–1937)の《12の練習曲》(1916)、さらに日本初録音となるイタリアのアルフレード・カゼッラ(1883–1947)の《6つの練習曲》(1943)を収録し、20世紀における多様なピアノ・エチュードの世界を描き出す。

『色とりどりのエチュード集」は、4人の作曲家それぞれが切り拓いた、固有の音響世界へ耳を傾けてほしいという願いが込められている。アルバムの欧文タイトル「 Études d’ailleurs」は、直訳すると「どこか別の場所からのエチュード」を意味する。20世紀のピアノ・エチュードといえば、前半ではドビュッシー、後半ではリゲティの作品が重要な位置を占めている。しかし本アルバムでは、それらとはまた異なる地点から生まれた、多彩で個性的なエチュードの魅力を味わっていただければ幸いである。

なお、本アルバムは都合により4巻にわけて配信するが、Vol. 1は、松平頼則の《日本の旋法によるピアノのための練習曲》から第1番から第7番とストラヴィスキー《五本指》、Vol. 2は、松平の練習曲第8番から第16番とカゼッラ《6つの練習曲》、Vol. 3は、松平の練習曲第17番から第19番とシマノフスキ《12の練習曲》、Vol. 4は松平の練習曲第20番から第33番を収録している。

録音:2016年12月7–9日(ストラヴィンスキー、カゼッラ、シマノフスキ)、2018年3月12,13日(松平)/丹波篠山市立田園交響ホール

Vol. 1
松平頼則:《日本の旋法によるピアノのための練習曲》(1970)より第1番から第7番
イーゴリ・ストラヴィンスキー:《五本指》(1921)

譜面だけだと単純な音型の連なりにしかみえないのに、二本の手で別々の調を弾き続け、そしてそれが重なり続けることで聴覚が惑乱される松平頼則の《日本の旋法によるピアノのための練習曲》。

《五本指》という具体的な名称をもち、一見簡素な作りにみえながら豊穣な音楽世界を創り出すストラヴィンスキー。

そんな二人の作曲家の共通項は新古典主義的な造形感覚。

Vo. 2
松平頼則:松平頼則:《日本の旋法によるピアノのための練習曲》(1970)より第8番から第16番
アルフレード・カゼッラ:《6つの練習曲》(1943)

松平頼則の《日本の旋法によるピアノのための練習曲》は、複調のほかに、反復と変奏という特色があります。この練習曲が作曲された1970年は、日本でもミニマリズムが浸透し始めた時期。
松平頼則のエチュードにはミニマリズムのエコーが仄かに聴こえます。

イタリアの「80年世代」の作曲家の1人カゼッラ
レスピーギの影に隠れがちがちですが、ピアノ曲には素敵な作品がたくさんあります。《6つの練習曲》は代表作の一つに数えてもいいでしょう。

松平頼則とカゼッラを繋ぐ鍵は、ズバリ、フランスのピアニズム。

カゼッラはパリで名教師ディエメにピアノを師事しましたが、松平頼則はそのディエメ門下のコルトーの弟子、ジル=マルシェックスに短期間ではありますが師事しています。
二人のエチュードには、スピード(トッカータ・スタイル)という共通項もあります。

Vol. 3
松平頼則:《日本の旋法によるピアノのための練習曲》より第17番から第19番
カロル・シマノフスキ:《12の練習曲》(1916)

松平頼則の《日本の旋法によるピアノのための練習曲》には、半音階の魅力に引きずられている、幻想的な曲も多数あります。

ポーランドのシマノフスキの《12の練習曲は》は、もっと光が当たって欲しい素晴らしい練習曲。

二人の作曲家を結ぶ線は幻想的というところにもあるのですが、じつは松平頼則はシマノフスキの練習曲を研究した形跡があり、とある変奏曲の一部には、「シマノフスキ風に」と書かれた変奏が含まれています。

Vol. 4
松平頼則:《日本の旋法によるピアノのための練習曲》より第20番から第33番a, b

松平頼則の《日本の旋法によるピアノのための練習曲》は基本的に五音音階に基づくピアノ奏法のためのエチュードですが、複調も織り込まれているので、耳のためのエチュードの側面をもつといってもいいかもしれません。

単純に見える音型の羅列も、深く掘り下げることで、音楽的に聴こえてくる仕掛けも随所にあり、一筋縄ではいかない松平頼則らしい、いい意味での「意地悪さ」があるといえましょう。